第18回 オープンソースAI(1) 〜オープンウェイト〜

AIの品質問題点をソフトウェア技術の観点から解説する
中島 震(国立情報学研究所 名誉教授)
中島先生は、放送大学大学院の情報学プログラムの中で「ソフトウェア工学(‘25)」を担当されています。先生の講義ではソフトウェア開発を工学的に行うためのプロセスや手法、品質や生産性、進化などに関する技術について学べます。ソフトウェア開発で生じる問題について学び、開発のプロセスに沿って問題点を整理し、問題解決への技術を理解していきます。
本記事では、ソフトウェア工学が専門で、「形式手法やソフトウェアテスティングの技術」「機械学習を対象としたAIリスクマネジメント」を研究されている中島震氏へのインタビューをもとに作成しています。
第17回ニュースレターでは、学習データセットの「外身」の権利保護について考え、解説いただきました。
AIに関連して「オープンウェイト」という用語を聞きます。「公開の重み」と直訳しては、何のことかよくわかりません。第18回となる今回のニュースレターでは、この「オープンウェイト」が大規模言語モデル(LLM)の分野で話題になっている理由を解説していただきます。
第18回 オープンソースAI(1) 〜オープンウェイト〜
LLMのAPI利用
普通、Webベースのユーザーインタフェースからチャットボットを使います。この場合、内部で作動するLLMは、クラウドサービスとして提供されています。LLMのAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を通じて情報をやりとりするので、API利用という言い方をします。
LLMのAPI利用では、「トークン」の使用量で従量課金されることが多いです。たとえば、入力トークン100万あたり何ドルといった価格設定です。そして、このAPI利用料金が高機能の新バージョンで値上がりしたとか、他社よりも安いとかを話題にします。詳しく述べませんが、トークンはLLMへの入力情報(プロンプト)や出力情報(生成コンテンツ)のサイズを表す指標です。チャットボットを利用して期待する結果を得られなくても、トークン消費が増え料金がかさむだけ、ということになりかねません。
ローカルLLM
クラウドサービスのAPI利用に対して、自身の計算機環境で実行するローカルLLMという方法があります。そのダウンロードされる実体が「オープンウェイトAIモデル」と呼ばれるソフトウェア成果物です。
LLM開発では、大規模学習データを用いてモデル訓練します(第11回ニュースレターの図を参照)。LLMなどの学習モデルは多数のノードを結合した多層ネットワーク構造です。隣あった層のノード間をつなぐリンクに、接続の強さを表す「学習パラメータ」が付されています。そして、モデル訓練の目的は、すべての学習パラメータの値を決定することでした。この値(重み)が確定すると、入力したデータが学習モデル(多層ネットワーク)内を伝播し出力に至る、つまり、計算処理が可能になる、というわけです。
オープンウェイトAIモデルは、重みが具体的な値に確定し計算処理を実行できる情報を、第3者が利用できるように公開した「ソフトウェアの実体」です。その規模は学習パラメータの個数で決まります。最近、通常のPC等で作動する規模のモデルが公開され、ローカルLLMとして楽しめる機会が増えてきました。高機能なモデルだと、メモリを増やしてもPC上では作動しない規模になります。この場合、社内管理するクラウド環境で運用すれば、外部事業者のLLMをAPI利用する必要はありません。
API利用との違い
API利用とオープンウェイトAIモデル利用の違いをみていきましょう。まず、運用保守の形態が大きく変わります。API利用では、LLMが最新の高性能モデルにバージョンアップされた場合、ユーザーからは自動更新されたように見えます。ところが、変更後バージョンの挙動が以前と変わり使いにくくなった、といった苦情が出たりしました。いずれにしても、バージョンアップ作業にユーザーが関わる必要はありませんし、関わることはできません。クラウドLLMの提供事業者にお任せです。
API利用で注意すべきことは、入力情報が外部サーバーで処理されるということです。LLMが何処で作動しているかを意識しないですむ一方、入力したデータは外部に流出しています。社内情報やプライバシー情報を入力していると大ごとになるかもしれません。また、見過ごしがちなのは、最近問題になっている「シャドーAI」です。会社が利用許可していないAPI利用LLMを、社員が個人的に業務で使っていることを指します。社内文書の要約をしよう、といった使い方は要注意です。
一方、オープンウェイトAIモデルを社内管理のクラウド環境やPC上で運用していれば、情報流出の問題は生じません。また、社内データベースと連携したシステムを実現すれば利便性が高まります。ただし、ダウンロード時点のLLMを使うことになるので、その後のバージョンアップへの対応などを自身で行う必要があります。
使い分け
API利用サービスとオープンウェイトAIモデルの社内システムは、どちらか一方を選択しなければならないというような、排他的なことではありません。高性能モデルをAPI利用することで、最新の情報や知識の検索ならびに収集を容易にする一方、社内システムで自社内に閉じた取り扱いが必要な情報を処理する、というような全体構成をデザインすればよいでしょう。
では、どのオープンウェイトAIモデルを選べば良いでしょう。研究開発レベルから、事業者が公開している実用レベルまで、規模も機能も多種多様です。LLMの機能振舞いは、モデル訓練に用いられた学習データに強く依存します。ところが、多くの場合、学習データは公開されません(第11回から第16回ニュースレターを参照)。オープンウェイトAIモデルだからといって、どのような学習データを用いて訓練されたかが不明なことに変わりないでしょう。オープンウェイトAIモデルに付随しているシステムカードあるいはモデルカードという説明文書に記載の大まかな情報が参考になるくらいです。
オープンウェイトAI利用の広がり
従来から、主に米国の事業者は、最先端の高機能モデルを、API利用に限定したクローズモデルの形態でビジネスを行なっています。一方、2025年頃から、このような高機能モデルと同等の性能を持つオープンウェイトAIモデルが中国の企業から公開され始めました。多くの場合、無償で自由に利用できることから、世界各国で、最先端のオープンウェイトAIモデルを利用する事例が増えています。
オープンウェイトAIモデルは、ホスティングサービスを行なっているHugging Face社のサーバーからダウンロードすることが多いです。以前は、米国メタ社が主として研究開発向けに公開したLLaMA2が人気を集めていました。ところが、2026年に、中国のアリババ社のQwen3.5がダウンロード数で1位になりました。Hugging Faceサーバーからダウンロードされた約4割が中国発オープンウェイトAIモデルということです。
実際、米国でも、自身で高機能モデル開発を行わないでLLMを利用してシステムを構築する事業者は、どの国で開発されたモデルかを問わず、オープンウェイトAIモデルを利用する状況になっています。
次回の予告
中島先生の第19回ニュースレターでは、オープンウェイトAIモデルの重要性を、生成AIに関わる国際競争の視点から解説していただきます。どうぞお楽しみに。
中島震先生、山口高平先生のニュースレターバックナンバーはこちら
中島先生の著書はこちらです
■「AIアルゴリズムからAIセーフティへ」
中島 震 (訳) (原著:O.サントス, P.ラダニエフ)
丸善出版 2025年3月 (ISBN: 9784621310328)
■「AIリスク・マネジメント」
中島 震
丸善出版 2022年12月 (ISBN: 9784621307809)
■「ソフトウェア工学から学ぶ機械学習の品質問題」
中島 震
丸善出版 2020年11月 (ISBN: 9784621305737)