第6回 「AIボット」——返事をすれば、続きから動くAI

AI活用支援の実務家に聞く AIと一緒に学ぶ
佐藤 雄大(ブリッジドット株式会社 代表取締役)
ブリッジドット株式会社代表取締役の佐藤雄大です。教育工学が専門。AI活用支援を本業とする実務家として、放送大学、数理・データサイエンス・AI講座のWebサイト運営にも携わっています。本ニュースレターでは、毎号1テーマで「AIを学びの相棒にする」ためのヒントをお届けします。
前回は、文章で答えずに数字で判定するAIを紹介しました。今回は、この秋に広がり始めたもう一つの新しい形、「AIボット」を取り上げます。第3回・第4回で作った「AI秘書」と、何が違うのか。私自身もまだ使いながら考えている途中ですが、ここで一度、言葉にしてみます。
第6回 「AIボット」——返事をすれば、続きから動くAI
決まった時間に報告を届ける「AI秘書」は、届けたところでやりとりが終わる一方通行でした。この夏から秋にかけて、話しかければ続きから動き、ボット同士で仕事を渡す「AIボット」が出てきました。秘書との4つの違いと、使う前に知っておきたいことを、図を交えてお届けします。
私の「AI秘書」は、一方通行だった
私はこれまで、目標や予定、メモをNotion(ノートやデータをまとめて置けるサービス)に集め、AIに毎朝、目標とメールと予定表を読ませて「今日やること」を書き込ませていました。第3回でAIをメールとカレンダーにつなぎ、第4回で決まった時間に自動で動かした、あの型です。私はこれを「AI秘書」と呼んできました。
便利なのですが、使い続けるうちに弱点が見えてきました。一方通行なのです。AIは書き込んだところで仕事を終えます。出てきたプランを見て「この日は無理だな」と思っても、そこから話は続きません。もう一度データを読ませて頼み直すことはできますが、やりとりはそこでいったん途切れてしまいます。
この秋、「AIボット」が広がり始めた
そこへ出てきたのが「AIボット」です。
じつは以前から、OpenClaw(旧名Clawdbot)というオープンソースのAIボットがありました。自分のパソコンで動かし、SlackやDiscordなどいつものチャットアプリから話しかけると、メールや予定の整理まで引き受けてくれるものです。ただ、本体は無料でも、裏で動くAIは自分で用意する必要があり、API(プログラムからAIを呼び出す窓口)経由で使うと、使った分だけ料金がかかります。月にいくらかかるか読みにくく、設定も自分で行うため、一部の詳しい人に人気の道具にとどまっていました。
流れが変わったのは、今年の夏から秋です。8月にxAIが「Grok Bot(グロック・ボット)」を、9月29日にOpenAIがChatGPTの「dots(ドッツ)」を発表しました。どちらも、AIサービスの有料プランに含まれる形です(dotsはProなど上位のプランが対象で、使える量にも上限があります)。料金の見通しが立つようになり、AIボットは少しずつ広がり始めています。使いこなしている人はまだ多くありませんが、この数年で大きく広がると私は考えています。
AIボットとは何か——専用の作業環境と記憶を持つ「同僚」
両社の公式の説明に共通するのは、次の3点です。
- 手元ではなく、サービス事業者のサーバ上で働く。
ボットは、手元のパソコンを直接操作するのではなく、サービス事業者のサーバ上に用意された専用の作業環境で動きます。そこにはボットが操作するためのブラウザもあり、Webサービスを開いて作業できます(図1)。手元とは別の場所で動くので、こちらがノートパソコンを閉じても、ボットの仕事は続きます。手元のパソコンをボットに使わせることもできますが、それは自分で許可したときだけです - 覚えている。
前のやりとりや仕事の進み具合、ファイルを持ち続けます - 必要なときだけ、戻ってくる。
自分で仕事を進め、人の判断や承認が要るところで声をかけてきます
dotsの公式ガイドには、何を見張り、どんなときに知らせてほしいかを伝えておけば、いつ声をかけるかはdotが自分で決める、とあります。Grok Botでは、ボット同士がメッセージを送り合い、2〜6体のグループチャットで仕事を受け渡します。「チーフ・オブ・スタッフ(取りまとめ役)」のボットが、メール担当や経費担当のボットを束ねる、という使い方も紹介されています。

秘書とボットは何が違うのか——4つの違い
正直に言うと、使い始めた頃は、私にも秘書との違いがよくわかりませんでした。どちらも予定やメールを読んで、案を出してくるからです。使い続けるうちに見えてきた違いを、4つにまとめます(図2)。

- 動くきっかけ。
秘書は「時刻」で動きます。ボットは「目標」を持ち、状況を見ながら動き続けます - やりとりの続き。
秘書は届けたら終わりです。ボットは、返事をすればそこから続きを進めます - 覚えていること。
秘書は毎回、渡された資料を読み直すところから始めます。ボットは前のやりとりや途中までの仕事を持ち続けます - 仲間。
秘書は1人で働きます。ボットはボット同士で相談し、仕事を渡し合います
ひとことで言えば、秘書には「作業」を頼み、ボットには「目標」を任せます。報告書を机に置いて帰る秘書と、チャットでいつでも話しかけられる同僚の違い、と言ってもよいでしょう。AIの分野では、こうした「目標に向かって、自分で状況を見て動くもの」を、昔から「エージェント」と呼んできました。AIボットは、そのエージェントがようやく身近な道具になってきたものだと、私は捉えています。
それでも変わらないことがあります。最後に判断するのは人だ、ということです。ボットが出してくるのも、基本的には秘書と同じ「案」です。違うのは、その案をめぐって、やりとりを続けられることです。
使う前に知っておきたい2つのこと
- ボットを分けても、見せる範囲は分かれない。
Grok Botでは、ボットを何体作っても、使う作業環境は1つだけです。作業環境はボットごとではなく、利用者ごとに1つ用意されます。ボットごとに分かれるのは、作業する画面と、そのボットとの会話や覚えた内容です。ファイルも、ブラウザでログインしたままのサービスも、つないだアプリも、その作業環境の中で全員に共通です(図1)。たとえば、メール担当のボットのためにGmailにログインすると、予定担当のボットからもそのGmailを開けます。公式ドキュメントも、画面は作業の場所を分けるだけで、安全のための仕切りではない、と書いています。第3回でお伝えした「許可は最小限に」が、ここでも効いてきます - 止めても、やったことは戻らない。
dotsの公式ガイドにも、タスクを止めても、すでに済んだ操作は取り消されないとあります。送信・削除・支払いのような取り消せない操作は、必ず自分の承認を挟む設定にしてください。第4回の「取り消せない操作は、自動化しない」と同じです
今日からできること——「作業」ではなく「目標」を渡す
AIボットを使える方は、最初に「作業」ではなく「目標」を渡してみてください。放送大学の科目を例にすると、こんな形です。
あなたは私の学習の伴走役です。目標は、学期末の単位認定試験までに「〇〇」の放送授業15回分を見終えることです。
・私のGoogleカレンダーを見て、無理のない視聴の予定を提案してください
・遅れが出たら、あなたから声をかけてください。毎日の報告は要りません
・カレンダーに書き込む前に、必ず私に確認してください
・残りの回数や締切は、記憶に頼らず、その都度カレンダーとメールで確かめてください
第4回で秘書に頼んだのは、「毎朝7時に、今日やることを3行で」という作業でした。ボットに渡すのは、ゴールと、声をかけてほしいときと、勝手にやってはいけないことです。最後の1行は、Grok Botの公式ドキュメントも勧めている注意です。ボットの記憶は便利な反面、古くなることがあります。
AIボットをまだ使えない方も、いつものチャットで練習できます。上の文章を新しいチャットの最初に貼り、AIの提案に「この日は無理」「来週は出張」と返事をしながら、同じチャットで続けてみてください(AIのほうから声をかけてもらう部分は、ふつうのチャットではできません)。目標を渡して、続きから話す。この感覚に慣れておけば、AIボットが身近なサービスに入ってきたとき、そのまま使えます。
社会人の実務ではこう使う
私はいま、Grok Botを愛用しています。使い方は、これまでの「AI秘書」の延長です。目標とメールと予定を読ませて今日の段取りを出させるところまでは同じですが、出てきた案に返事をすれば、そこから話が続きます。
驚いたのは、ボット同士のやりとりです。これまでも、複数のAIに役割を与えて会話させることはありましたが、私が間に入って、無理やり話をつないでいました。Grok Botでは、ボット同士がある程度、自分たちで話を進めてくれます。会社に置くなら、メール担当、数字担当といった「AI社員」を何人か置き、取りまとめ役のボットに束ねさせる形になるでしょう。それでも、最後の送信ボタンを押すのは人です。
試せる環境がある方は、Grok Botかdotsの、どちらか一つをぜひ触ってみてください。秘書とボットの違いは、説明を読むより、一度返事をしてみるほうが早くわかります。
参考文献
※ Grok Botの公式の発表とドキュメントです(英語)。ボットの仕組み、グループチャット、共有の作業環境の注意点、対象のプランを確かめられます。
xAI Introducing Grok Bot https://x.ai/news/introducing-grok-bot
xAI Grok Bot ドキュメント(概要と注意点) https://docs.x.ai/grok-bot/overview
xAI Grok Bot ドキュメント(パソコンとアプリ) https://docs.x.ai/grok-bot/computer-and-apps
xAI Grok Bot ドキュメント(グループチャット) https://docs.x.ai/grok-bot/chat-and-collaboration
※ ChatGPTのdotsの公式の発表とガイドです(英語)。会話のあいだの働き方、声のかけ方、承認と安全の仕組み、対象のプランを確かめられます。
OpenAI Introducing dots https://openai.com/index/introducing-dots/
OpenAI Meet dots(使い方のガイド) https://learn.chatgpt.com/docs/dots
※ OpenClawの公式サイトとソースコードです(英語)。
OpenClaw 公式サイト https://openclaw.ai/
OpenClaw GitHub https://github.com/openclaw/openclaw