第6回 推論AI「o1」と高度な問題解決の可能性

GPTの進化と今後の展望
山口 高平(神奈川大学 教授)
放送大学では、数理・データサイエンス・AI講座で「言語生成 AI の機能と社会への応用」を公開しています。
このニュースレターでは、山口先生の講義収録後のGPTの最新情報を随時みなさまへ提供することにしました。購読者がお持ちの生成AIに関する情報をupdateするためにぜひこのニュースレターを活用してください。
山口先生は、放送大学 数理・データサイエンス・AI講座で「AIプロデューサ〜人とAIの連携〜」「言語生成 AI の機能と社会への応用」を担当しています。また、放送大学の総合科目「AIシステムと人・社会との関係('20)」の主任講師です。
※この記事は神奈川大学の協力を得て作成しています。
本記事では、AI技術の最前線に立つ専門家である山口高平氏へのインタビューをもとに作成しています。
既にニュースレターでお伝えしているように、生成AI GPT-4oはプロンプト(指示文)に対して関連知識を検索して組み立てて回答しましたが、実際に問題を解いて解答を提示することはできません。AIで問題を解くことは「推論」と呼びますが、2024年9月、高度な推論機能を提供するAIが登場しました。
第6回のインタビューでは、推論AI「o1(オーワン)」について山口先生に解説いただきました。
高度な推論機能を提供する推論AI「o1(オーワン)」。
果たしてAIはシャーロック・ホームズのように事件の謎を推理できるのでしょうか?
第6回 推論AI「o1」と高度な問題解決の可能性
技術動向:推論に特化したAI「o1」とは?
OpenAI社は生成AIだけでなく、高度な「推論」に特化したAIエンジンも開発しています。その代表が「o1」。o1は、与えられた問題に対し様々な推論機能(演繹的推論、帰納的推論、多段推論、数理的推論、空間・視覚推論、因果推論、仮定推論、文脈的連続推論、自然言語ルール抽出、マルチモーダル推論)を実行して、論理的に問題を解決する高次推論AIです。
従来のGPTは、膨大な書籍(凡そ1000万冊)を読み込み、その中からプロンプトに関連する情報を取り出して回答する「質問応答型」のAIでした。一方、o1はストーリー全体を分析したり、トリックを見抜いたりしながら、論理的に「犯人は誰か?」といった問いに推理で迫ることも可能です。
事例紹介:AIと一緒に“推理”する楽しさ
シャーロック・ホームズの「まだらの紐(ひも)」などの推理小説を題材に、ユーザーと高次推論AIが協力して事件の真相を探る体験が可能です。o1は複数の推理アプローチ(ストーリーの振り返り、登場人物の動機分析、トリックの検証など)を提案し、ユーザーはそれを選択して一緒に考える形式。まるで“AIと読書会をしている”ような感覚です。
ある高校の特別授業では、生徒がo1とともにミステリの事件を解く「AIミステリワークショップ」が開催され、AIとの“対話による推理体験”が好評を博しました。授業後のアンケートでは、「考え方の幅が広がった」「友達と協力するより冷静に考えられた」という声もあり、推論AIの教育活用の可能性が見えてきています。今後は英語や歴史など、異なる教科分野での応用も期待されます。
推論AIが始まった:「回答」ではなく「思考の流れ」を見る
o1を使う際のポイントは、単に「答え」を得るのではなく、「どうしてその結論に至ったか」のプロセスを観察すること。AIが示す思考経路を見ることで、論理的思考力を育てたり、他者の視点を疑似体験したりできます。ただし、推論過程が長い(多段推論)場合に推論が破綻したり、複数のルールが照合するとルールの適用順序を間違えたり、ゴールに向かって推論している時にゴールを忘れてしまうなどの問題も指摘され、その改善が進んでいます。
次回の予告
次回の第7回ニュースレターは6月18日頃に公開予定です。
推論AIの新しい展開o4系について紹介します。どうぞお楽しみに!