第8回 依頼業務を自律実行するAIエージェントの登場

GPTの進化と今後の展望
山口 高平(神奈川大学 教授)
放送大学では、数理・データサイエンス・AI講座で「言語生成 AI の機能と社会への応用」を公開しています。このニュースレターでは、山口先生の講義収録後のGPTの最新情報を随時みなさまへ提供します。生成AIに関する情報をupdateするためにぜひ活用してください。
山口先生は、放送大学 数理・データサイエンス・AI講座で「AIプロデューサ〜人とAIの連携〜」「言語生成 AI の機能と社会への応用」を担当しています。 また、放送大学の総合科目「AIシステムと人・社会との関係('20)」の主任講師です。
前回の第7回ニュースレターでは、高次推論エンジンファミリー「oシリーズ」の進展、技術動向と、oシリーズの性能評価(推論の深度、信頼性、実行効率)を比較し各モデルの特徴を解説しました。
今回はAIエージェントの研究、開発の経緯と、
7月17日に公開されたばかりのOpenAI社のChatGPT Agentから見える
AI技術の進化について山口先生に解説いただきます。
第8回 依頼業務を自律実行するAIエージェントの登場
技術動向:エージェント研究の経緯
エージェントとは、人に代わって業務を実行するソフトウェアの総称であり、AIの分野では、1990年代にマルチエージェントシステムの研究が開始されたが、複数のエージェント群の制御、エージェント間の交渉等の研究が焦点となり、エージェントの知識処理(人を代行する業務処理)に関連した研究はあまり成されなかったため、エージェントの実用化には至らなかった。
しかしながら、2022年11月末に、LLM(大規模言語モデル)を利用する対話質問応答システムとしての生成AIであるGPT-4oが登場し、自然言語インタフェースChatGPTを通して、一般ユーザが生成AIにアクセスする壁が取り払われ、IT技術者だけでなく、多くの一般ユーザが生成AIにアクセスできる「AIの大衆化」時代が到来した。現在2年半以上が経過し、生成AIのアクティブユーザ数は、先進諸国において、我が国は米国に次いで2位となり、生成AI普及国になっている。
個別AIエージェント開発の急増
2024年から、一般ユーザが与える業務を自律的に実行するAIエージェントが、個別業務単位で数多く開発される状況になってきた。例えば、ソフトバンク株式会社はAIエージェントを全社的取組みとして展開し、2025年6月「6週間で2万人の社員が計90万個のAIエージェントを開発しました」「かつては専門のエンジニアが必要だった複雑な開発工程が、今では誰でも実行できるようになりました。今年は根本的な変化の年だと確信しています。」とSB-CEO宮川潤一氏は述べている(SoftBankWorld2025、2025年7月23日,https://global.tm.softbank.jp/business/sbw/2025/)
自律的に業務を実行するAIエージェント構築フレームワーク
さらに、2025年7月17日、OpenAI社は、AIエージェントを構築するプラットフォームとしてChatGPT Agentが公開され、自律実行可能なAIエージェントを開発できるようになった。表1は、OpenAI社が考えるAIの5段階レベルであり、AIはレベル3に到達したと述べている(レベル4と5は、今後の目標とされている)。
また、アマゾン・ドット・コムはAIエージェントの開発・運用を支援するクラウドプラットフォームAgentCore(エージェントコア)、マイクロソフトは複数のAIエージェントを連携できるサービス、グーグルは生成AI Gemini(ジェミニ)でAIエージェント機能提供など、ビッグテックも同様の試みを開始するとともに、ChatGPT Agentより自律実行度が高いGenspark(ジェンスパーク)なども注目を集めている。
表1:OpenAI社が考えるAIの5レベル
レベル | サービス | 特徴 |
---|---|---|
1 | GPT-4o, チャットボット | 自然言語による対話できるAI |
2 | oシリーズ、 推論エンジン | 人レベルの問題解決能力を持つAI |
3 現在レベル | ChatGPT Agent、 エージェント | 自律的に実行可能なAI |
4 | 統合システム型AI | 務システムと統合されたChatGPT。対話だけでなく実務遂行可能 例えば、GPT-4o + Custom Tools + RAG + Function Callingにより構成できる。 |
5 | 共創・社会統合型AI | 社会制度・倫理・住民との共創AI。記憶保持、説明責任、自律エージェントとして社会的役割を担う。 例えば、GPT-4o + Long-term Memory + XAI + Governance Layerにより構成できる。 |
参考文献:https://gigazine.net/news/20240712-openai-super-intelligent-ai-scale/
次回の予告
次回の第9回ニュースレターは8月下旬に公開予定です。Chat GPT AIエージェント、Gensparkなどの代表的なAIエージェントの構成方法とその利用法について解説します。どうぞお楽しみに!