第9回 AIエージェント開発プラットフォーム

GPTの進化と今後の展望
山口 高平(神奈川大学 教授)
放送大学では、数理・データサイエンス・AI講座で「言語生成 AI の機能と社会への応用」を公開しています。このニュースレターでは、山口先生の講義収録後のGPTの最新情報を随時みなさまへ提供します。
生成AIに関する情報をupdateするためにぜひ活用してください。
山口先生は、放送大学 数理・データサイエンス・AI講座で「AIプロデューサ〜人とAIの連携〜」「言語生成 AI の機能と社会への応用」を担当しています。 また、放送大学の総合科目「AIシステムと人・社会との関係('20)」の主任講師です。
前回の第8回ニュースレターでは、AIエージェントの研究、開発の経緯と、OpenAI社のChatGPT Agentから見えるAI技術の進化を解説しました。
今回はプラットフォームを利用したAIエージェントの開発手順、
そして人とAIエージェントと従来AIとの協力(補完)関係を解説いただきます。
本分野は進展速度が極めて速く、
二三ケ月もすれば新しい動きが加わっている可能性が高いことをご了解ください。
以下、専門的な分野にも触れますが是非ご一読ください。
第9回 AIエージェント開発プラットフォーム
技術動向:多様なAIエージェント開発環境レベル
人の代わりに特定業務を自律的に実行できるAIエージェントは、米国に続いて我が国でも、様々な業務に適用されようとしています。AIエージェント開発環境としては、表1に示すように、開発環境の操作が容易な初級レベル(①)から操作が難しい上級レベル(④)まで、ユーザスキルや利用方法に応じて、多様な形で普及しようとしています。以下、①②のレベルでの代表的なAIエージェント開発プラットフォームDIFY(ディファイ)について説明します。
参考:https://dify.ai/
開発環境 (ユーザレベル) | 特徴 | 強み | 弱み | 適した用途 |
① ノーコード型 (初学者) | GUIやテンプレートにより専門知識なしで構築 | 開発が早い/ 導入障壁が低い | 複雑な制御困難/ カスタマイズ性が低い | 小規模業務自動化、PoC、教育用 |
② プロンプト設計型 (実務者) | LLMへのプロンプトを工夫してタスクを遂行 | 柔軟/ 試行錯誤で素早く改善 | 再現性が低い/ 人に依存する | 企画・調査、 カスタマー対応試作 |
③ Chain型 (応用者) | LangChainなどでタスクを分解・接続 | 構造化されたワークフロー実現 | 設計工数が増える/ 依存ライブラリ多い | 検索+生成の組合せ、RAG実装 |
④ マルチエージェント型 (熟練者) | 複数エージェントが協調し問題解決 | 複雑課題の分担/ 探索の幅が広がる | 制御が難しい/ 計算資源を多く消費 | 研究開発支援、 シミュレーション |
表1 AIエージェント開発環境(GPT-5による回答を一部修正)
AIエージェント開発プラットフォーム
Difyは、表1に示すように、初学者から利用可能なノーコード型AIエージェント開発プラットフォームです。Difyは「Define + Modify」に由来するという説明がWeb上にありますが、それは間違いで「Do it for you(あなたのためにやる)」 に由来しています。すなわち「あなたのためにエージェントを作る/動かす」というサービスコンセプトを意味する名前です。
「AIエージェント開発手順」は以下の通りです。
① 目的・ユースケース定義
(学習支援/業務自動化/実験補助などを明確化)
②モデル選択・接続
(GPT-4o, GPT-5, oシリーズ, Claude, Gemini などを選択してAPI接続)
③プロンプト設計
(役割・文脈・制約を定義し、システムプロンプトやテンプレートを作成)
④ ワークフロー・ツール連携設計
(RAG, Web検索, 外部API, DB連携、Function Calling)
⑤ 評価・テスト
(Chain of Thougt 推論手順を含む)(回答品質の検証、エラーケースの収集、評価指標作成)
⑥運用・モニタリング
(ログ監視、利用状況分析、エージェントの改修)
⑦ セキュリティ・ガバナンス
(データ保護、利用権限、監査証跡、説明責任「XAI」)
ここで、Difyによる支援可能性は(以下〇△×の3段階で記述)、①×、②〇、③〇、④〇、⑤△、⑥△、⑦×となり、①はユーザが考える事であり、⑤⑥はLangfuse(AIエージェントの品質評価ツール)、⑦はPrompt Guard(プロンプトインジェクション攻撃を防ぐ)で対応するケースが多いです、図1に、Dify, Langfuse, Prompt Guardから構成される、総合的なAIエージェント開発プラットフォームの構成を示しますが、今後、このようなプラット―フォームを利用して、多様なAIエージェントが開発されていくことが予想されています。

図1 総合的なAIエージェント開発プラットフォーム(by GPT-5)
人とAIエージェントと従来AIとの協力(補完)関係
人とAIエージェントと従来AI、それぞれの業務(タスク)特性について、得意(〇)、時間を要するが可能(△)不得意(×)という評価を示した結果を表2に示します。また、その結果をベン図で表現したものを図2に示します。このベン図を利用して、皆さんの組織で実施している業務群を分析して、人とAIエージェントと従来AIがどのように協力すれば、組織全体をDXできるかというガイドラインを作成していくことができます。なお、タスク「暗黙知を含む判断・調整」は、従来AIは×になっていますが、暗黙知が外在化されれば従来AIでも順次実行可能になるので、図2では、人と従来AIの共通部分に位置付けています。
タスク | 人 | 従来AI | AIエージェント |
戦略立案・ 新規事業構想 | 〇 | × | △(補助的に可) |
定型的な データ処理・計算 | △ | 〇 | 〇 |
高信頼性が必須の ルール業務 | △ | 〇 (BRMS) | △ (実証段階) |
顧客との柔軟な 対話・提案 | 〇 | × | 〇 |
大規模情報収集 ・要約 | △ | △ (限定的検索) | 〇 |
暗黙知を含む 判断・調整 | 〇 | × | △ |
システム間の 自律的連携・調整 | × | △ (個別連携のみ) | 〇 |
倫理的判断 ・責任の所在 | 〇 | × | ×(未解決課題) |
表2 タスク別の人とAIエージェントと従来AIの性能

図2 人と生成AIと従来AIとの協力(補完)関係
次回の予告
次回の第10回ニュースレターは9月下旬に公開予定です。
今回は、AIエージェントを適用するタスクの一般的性質について解説しましたが、次回は、具体的に適用できるタスクとその効果、および、他のAIエージェント開発プラットフォームとDifyとの比較について解説します。どうぞお楽しみに!